イラストとはペンタブレットで描くもの、という認識は一般の人にも浸透しているみたいですね。
私、一般の人にイラストレーターという職業名を告げると「わーすごい、私パソコンでお絵描きなんかできないわ〜」なんていう反応を受けることがあって、デジタル・アナログ両刀の私としては複雑な気持ちなんだけど、ツッコミも説明も面倒なので半笑い、そんな体験が何度もあります。
イラストレーターはデジタルで描かなければダメだ、なんて嘘です。アナログ制作でも仕事は来ます。ただし、アナログ派のイラストレーターさんにも、できればデジタルスキルは身につけて欲しい。今日はそんなお話です。
いつだって人はアナログの絵の風合いを求める
イラストレーター志望の方から「イラストレーターになりたいけど、仕事にするにはデジタルで描かなければならないのですか?」という質問をいただきました。
ひとことで答えるならば「そんなわけない」。
アナログ・デジタル両方で制作実績のある私からしてみれば、どこからそんな話がでてきたの?と思ってしまいます。つい先週もアナログイラストの依頼をいただいたばかりですよ。
いつだって、人はアナログの絵の風合いを求めます。デジタル制作だけど手描き的な風合いをつけるよう意識して描いているイラストレーターさんは多くいますし、そもそもペンタブレットやペイントソフトは、アナログイラストを再現しようとして進化してきました。
アナログだと仕事が来ない、とも言えません。仕事が来ない理由の多くは営業方法やウェブサイトの作り方に問題があるからで、画材のせいってケースはかなりレアです。
むしろ、ウェブ媒体やビジネス系ジャンルにおいてかえって人間的な温かみを求める流れも一部にはあり、アナログで描ける人が少ない今、アナログ派のイラストレーターさんにはチャンスと捉えることもできます。
たしかにペンタブレットは進化したが、「この程度のこと」がいまだにできない
アナログ・デジタル両刀の私なので、この場所から見えることがあります。
10年前に比べて、ペンタブレットも、ペイントソフトも、性能は飛躍的に向上しました。Macの性能も良くなって、昔は超高級機でしか使い物にならなかったのが信じられない。本当にいい時代になりました。
一方で、ほとんど進歩していない点もあります。
例えば、水彩絵具を薄く溶き、水塗りと組み合わせてグラデーションさせる。
例えば、果物の表面をペンの微細な力加減で描きとる。
特別な技法でもなんでもないし、いつも使うありふれた作業です。
こんな基本的な動作が(私に言わせればむしろ、この程度のことが)、今でもデジタルにはできません。PhotoshopもPainterもクリスタもメディバンもAppleペンも試したけど、いずれもアナログの域には全くもって達していません。
もちろん「※感じ方には個人差があります」。デジタルとアナログの差を感じにくいジャンルもありそうです。ソフトもハードもその開発過程において、売れる対象に合わせて進化してきました。私のような少数派よりも、多数派のアニメマンガの人たちを相手にする方が、メーカーは儲かりますからね。
デジタルとアナログは「別の画材」
デジタルがアナログの完全な代わりをするということはあり得ない、少なくともこの先2、30年は、と思っています。
私はペンと水彩のイラストを描いているけど、それをデジタルでまったく同じように再現するのは、工夫したけど完全には無理でした。いいところまで近づくことはできるけど、似て非なる別のタッチにしかならないのです。
今アナログタッチだけで描いているイラストレーターさんが、それをデジタルツールで全く同じように置き換えようとすれば、きっと苦労や悲しみの元になるでしょう。ペンタブレットじゃアナログほど精細に描けないって思っても、それはそういうもんなのです。
デジタルツールは別の画材、って思っていてほしいんです。代替品、または、本来とは別のタッチ。
でもそれはネガティブな意味じゃなくて、新しい描き方を手に入れるってこと、ひいては仕事の幅を広げるかもしれないよ、ってこと。似て非なるものとわかった上で、自分に合った使い方を考えるのがオススメです。
例えば私は紆余曲折ののち「イラレで水彩ぽく描く」というタッチを開発して、結局いくつかの本や雑誌の仕事につながったことがあります。
アナログ中心のイラストレーターさんへ、デジタルツールの取り入れ方
ペンタブレットとペイントソフトは、アナログイラストの完全な置き換えにはならないかもしれない。でも、アナログで描いた絵を補強したり、手数を減らすためにも、デジタルツールは使えるんです。
私もアナログで依頼をいただいたときは、基本的には水彩紙にペンと絵具で描くけれども、ある程度の修正はPhotoshopでできるように、一部を分けて描いたりしています。
例えば、水彩絵具は色数が限られます。思い通りの色を無理やり混ぜて作るよりは、澄んだままの絵具で塗って、後からPhotoshopで色調整するほうが綺麗に見える場合もあります。
ラフの制作をデジタル化することもできます。最近はiPadとスタイラスペンを打ち合わせ先に携えていけば、Adobe SketchやDrawを使ってその場で相談しながら色付きラフを作る、ということも可能になりました。
一旦描いたら取り消しできないアナログイラストですから、事前の相談を濃くしておくのは重要なことですよ。
工程の一部分をデジタルにする手法も考えられます。アウトラインは手描きでして、色をつけるのはデジタルで、とか。
色の管理がしやすいのはデジタルの強みのひとつですから。アナログの風合いを捨ててでも色にこだわりたいなんて依頼にも、こうすれば対応できるわけですね。
デジタルイラストなら修正が簡単、は本当にメリットか
デジタルイラストとアナログイラストを比べたとき、デジタルが明らかに優位なのは、修正しやすい点です。
だからといって、営業において「いくらでも修正が効きますよ」と提案をするのは、果たしていいことなのでしょうか?
当然、修正を重ねれば手数が増えて時間を取られます。修正ごとに追加料金を取れるのならいいですが、そうでなければ利益は減っていくばかりです。
私はアナログイラストも制作しています。アナログ制作では当然のことながら一旦描いたものは取り消せませんので、修正はできません、できたとしても手間がかかるから追加料金を頂戴しますよ、という売り方をしています。
そうするとほとんどのお客様が修正を避けようとするので、結果として一度も修正をしないケースも少なくないのです。
画材や手法が何であれ、自分がしんどくなく、かつお客様も満足できる売り方を考えなきゃいけないのは、変わらないのですよね。
あなたの描けるタッチを商売に活かしてください
デジタルイラストとアナログイラスト、どっちの方が優れているか!?みたいな論争をネットで見かけたことがあるけど、商売としてイラスト制作をやっている者からしてみれば、ホントどうでもいいなって思いました。優劣ではない。
絵柄や描き方は人それぞれ千差万別でいいのです。それよりも、イラストレーターになるには、あなたがどう仕事をしていきたいか、あなたの描ける絵をどう商売に活かしていくか、ってところを頑張って考えましょうね。
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いしつく!の教科書
「ポートフォリオサイトで仕事依頼が来るって、ほんとにそんなこと可能なの?」
そんなイラストレーターに読んでほしい全5章のnoteマガジンです。専門用語はできるだけ使わずに書きました。
目次 & 概要
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まえがき 9割のイラストサイトは仕事の役に立っていない
そもそもウェブサイトを仕事に役立てること自体が無理なのでは?そう思っているかたに、私の体験をお話しします。まえがきを読む » -
第1章 イラストサイトに仕事の問い合わせが来ないのは、こんな勘違いをしているから
「作品ギャラリー」を作ろうとしたり、ウェブサイトなんか活用できないものと思い込んでいたり。よくある勘違いを挙げました。1章を読む » -
第2章 仕事の取れるイラストサイトを作るための、正しい作戦
どう作り、どう利用していくべきか、という全体の作戦をお伝えします。いちばん大切なのは、信頼を得ること。バズや過剰なアクセス稼ぎは要りません。2章を読む » -
第3章 仕事の取れるイラストサイトを作るためには、こんな材料をそろえよう
ドメインやサーバー、コンテンツの用意のしかたを解説します。プロフィール文の改善例や、イラスト画像の準備のポイントなど。3章を読む » -
第4章 仕事の取れるイラストサイト、レイアウトの正解例
実際に運営されているウェブサイトのレイアウトとページ構成を解説します。なぜそのようになっているのか、デザインには理由があります。4章を読む » -
第5章 作ったあとどうする?上手な活用とは
ウェブサイトは作って終わりではありません。SEOについて、ブログのやりかた、営業メールの送りかた、現実の営業に活かしていく方法など。5章を読む »