子供がイラストレーターになりたいって言い出した!そんなお父さんお母さんへのお手紙

拝啓
そーいや私ももう、高校生や大学生の子供がいてもおかしくない年齢なんだよね〜。

あなたのお子さんがイラストレーターになりたいって言い出したって聞きました。どう答えればいいか困っているそうですね。私は実際にイラストレーターをやっていたから、何かお力になれればいいなと思って書きました。

「食っていけるのはほんのひと握りの人だけ」は迷信なので言わないでください

頭ごなしに否定する親も多いって聞くけど、それは知識のなさからくる恐れです。

親だって不安なんだよね。ずっと会社員としてしか働いたことのないあなたにとって、そんなわけのわからない職業……って思うのも無理はない。

でもよく言う「アレ」は迷信というか、勘違いというか、何かホンワリしたアレなので、それだけ覚えておいて。ゆえに、このセリフを子どもに言ってもあまり説得力はないはず。

イラストレーターとして食っていけるのは、才能あるほんのひと握りの人だけ

どういうこと?って思った?

イラストレーターになるには、絵の才能はそこまで関係ない

ところでさ、知っているイラストレーターの名前を挙げられる?
良くて一人か二人、テレビにも出てるあの人とか、売れてるマンガ家の名前が浮かぶのが関の山でしょ。

まずはじめに、イラストレーターの大半はフリーランサーです(職種として採用している会社も存在するが多くはありません)。なので「イラストレーターになりたい」は「個人事業主として開業したい」とだいたい同義とお考えください。

つぎに、イラストレーターという職業は基本的には裏方です。イラストレーターの大半は、世間の方が目を向けないいわゆる「無名の」イラストレーターです(てかまあ奥付にはバッチリ名前が載ってんだけどね)。

私や私の仲間たちは、そういうイラストレーターです。気付いてないだろうけど、あなたも私たちのイラストをどこかで見たことがあると思う。そして、だいたいみんな「食えて」います

それなのにアノ迷信があんなに根強いのは、食っていける状態にたどり着けない人も事実いて、そういう人は実は結構めだつからです。

そういう人の描く絵は得てして緻密でパワーがあり、なおかつTwitter・インスタ・個展・カフェなどの展示活動が中心だから、一般の目にも触れやすい。「食えて」いるイラストレーターが世間に知られにくいのとは対照的なんだよね。

そういう人はなんで食っていけないのかというと、ビジネスを無視するからです(あえて無視している人もいます)。正直な話、イラスト自体のできがソコソコであっても(ヘタでは話にならないが)、ビジネスが上手なら十分やっていけます。

それが証拠に、食っていけないイラストレーター志望の方でも、ビジネスの部分をテコ入れすればたいていは仕事が取れるようになります(いしつく!はそういうことを目指しているサービスです)。

つまり、イラストレーターになるには世間が思っているほど芸術的才能は関係ないってことが言いたい。むしろクラシック音楽やスポーツなど身体的素質を問われる分野のほうが、はるかに厳しいよ。

何か具体的な行動のアドバイスを

ふたば

優しいあなたなら、夢を語り出した子どもを頭ごなしに否定するよりは、この機会に何か大人としてアドバイスしてあげたい、と思っているはず。
それなら、こんなことを教えてあげたらいいんじゃないかなって私は思う。

好きなことをするのには、他の勉強も要る

ひとつは、好きなことを仕事にするのと、単に好きなことだけをするのは違うのよ、ってこと。

絵ばかり描いていても、ビジネスを知らなきゃイラストレーターになれないのと同じように、
理科の実験が好きでも、英語で論文を書けなきゃ研究者にはなれないし、
野球が好きでも、練習をいとわない精神力とトレーニング理論なしではプロにはなれない。

うまく言えたかわかりませんが、同じようなことはどんな分野に進んでもあるでしょう?大人の世界では、自分の生きたい道を好きなように歩くには、幅広い知識がいります。だから一見役に立たない学校の勉強も、結局は必要なんだってこと。

夢の叶え方、ってものがある

もうひとつアドバイスしてあげてほしいのは、夢を叶える方法です。有名な野球選手のエピソードとかでご存知だろうけど、単純なセオリーなんですよ。逆算するんです。

夢は叶うものとまず決めて、「では、どうやったらそこへ行けるの?」と考えます。そして自分に足りないものを埋めていく。「こんな夢叶うわけない」「自分には無理」と考えていればそのとおりの未来がやってくるだけです。

夢は叶うという立場を取ると、具体的な行動が見えてくるわけです。じゃあ、せっかくだから何か実際にやってみたら?という話になりますね。

イラストレーターになりたいって言い出すくらいのお子さんなら、絵はそれなりに上手なんでしょうから、手作りで展覧会をしてみたり、作品集を作ってみるのはどう?(あくまで親は手出ししないで、自分でやらせてね)

なり方を調べるのもいいかもしれません。フリーランスってどういう意味なの?ビジネスを一人でやってくってどういうことなの?とか。わかんなかったら、じゃあ周りの大人にインタビューしてみたら?とか。

これでお子さんの未来が決まるわけじゃないけど、ともかく「夢のために何か行動してみた!」ってことは、素晴らしい体験になると思うよ。

イラストの専門学校や美大に行きたい、と言われたとき

大学のイメージ

それと、あなたのお子さんが専門学校へ行きたいと言い出したときのために、知っていることを綴ってみます。

イラスト専門学校のメリットとデメリット

イラストの専門学校に行くメリットは、実技の課題をこなすのに集中できる環境が手に入ることです。大学では実技だけじゃなく座学や体育の単位も取らなきゃいけませんから、もう少し幅広く教養がつくという意味では良い。

行くなら課題が多くてキツい学校を選ぶことです。締め切りを守って何か制作しなければならないというシチュエーションが、イラストレーターやデザイナーの業務そのものの訓練になり得るからです。こういう点から学び取ることができる人なら、学校へ行く価値は大いにあります。

ただ、自分の好きな絵ばかりは描けません。苦手なこと、好きでないことも課されます。それも訓練のひとつなのですが、それを不服として学校を辞めようとする若者もいます(そういう相談をされたことが何度かあります)。もし親がお金を出すつもりなら、ここはきっちりと話し合って、卒業を約束させるなどしたほうがいいのかも。

卒業すれば即イラストレーターになれる訳ではない

専門学校や美大を卒業したからといって即イラストレーターになれるかというと、全くそうではない。逆に、美大や専門学校を出なければイラストレーターになれない、という認識も大いに間違いです。

学校を卒業することと、イラストレーターになる≒起業することは、別次元の話です。あとで詳しく書くけど、卒業したら即イラストレーターに、というのはあまり現実的じゃない。ある程度の社会経験はどうしても必要です。

美術系学校以外の選択肢も考えてみて

繰り返し言うように、描くことばっかりやっていても、イラストレーターにはなれません。ビジネスの勉強が必要です。だけどそれは、美術系の専門学校や大学では教えません。

むしろ将来本気でイラストレーターになるつもりなら、自分に足りないビジネスの知識を重視して、経営・経済系の学部へ進学、または高卒で就職して一足先に社会経験を積むっていう選択肢もあります。
個人的にはこのほうが見聞が広がると思うのでオススメ。絵は、本当に好きなら放っておいても描くし伸びるから。

何れにせよ卒業したら一旦は就職が必要、となると、美術系学校はどこもあまり就職には強くないからね……私の時代よりは良くなってるのかもしれないけど。その辺、若い子には判断しづらいところだから、親のあなたも一緒にリサーチしてあげてほしいな。

学校を出たらすぐイラストレーターになりたい、と言われたとき

最後に、ここをもうちょっと掘り下げておこうと思います。「学校を卒業したらすぐイラストレーターになる」って言い出す子がいます。

私なら、それはやめとけと言います。イラストレーターになりたいなら、絶対に一回は就職した方がいい。それが近道です。

イラストレーターになることはフリーランスとして起業するのとほぼ同義、とは前述のとおり。いわゆる「新卒フリーランス」で活躍してる人も少数いるけれど、イラストの仕事についていうなら全くおすすめしません。

イラストって、一人で篭ってする仕事じゃあないんですね。必ずチームワークの一環です。なんらかの媒体があり、編集者、ディレクター、デザイナーなどが一体となってひとつのモノを作ります。

そんなわけですから、イラストレーターにはビジネス上のマナーやコミュニケーション能力が必須です。学校では教えてもらえないやつです。ですがクリエイター志望の子って、しばしばコミュニケーションが下手だったりするでしょ。

そのままひとり立ちしてしまったら、どうなるか?みなまで言わないけど、各方面に多大なご迷惑をかけそうだよね。しかもフリーランスには、叱ってくれる先輩社員もいない。だからまずは就職して社会経験を積みなさい、っていうんです。

もし私が母親ならば、せっかく本気なら、クライアントにも仲間にも愛されるイラストレーターになってほしいって思います。

そんじゃまたね。長々と付き合ってくれてありがとう。
あなたがた親子に幸あれ!

かしこ

いしつく!の教科書

「仕事の依頼が来るポートフォリオサイトって、どうやって作ったらいいの?」

そんなイラストレーターに読んでほしい全5章のnoteマガジンです。専門用語はできるだけ使わずに書きました。

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