フリーランスイラストレーターは、名刺に住所を記載しましょう。住所を書くときは番地まで書きます。
なぜか?
そもそもなぜ名刺交換をするかというと、信用してもらうためです。初対面の相手に情報を自ら明かして「逃げも隠れもせず、責任持って仕事しますよ」と伝えるためです。
一方、ポートフォリオサイト(イラストウェブサイト)には、市町村 (◯◯県◯◯市)までくらいを掲載するのがおすすめです。
でも個人情報がどうの、などで気になってる人もいると思います。どう考えるべきなのか、解説します。
「SNS中心の時代だから住所はいらない」の意味不明さ
「名刺に住所を記載する必要は無くなった。なぜなら、SNS中心の時代になり、居所を転々とするフリーランサーが多くなったから」という主張が流通しているんだけど、私にはこの意味がちょっとわからないです。
「居所を転々としている」フリーランサーなんて私の周りでは聞いたことがないんですけど、いわゆる「ノマド」ってのでしょうか? 東京にはそういう方がいっぱいいるんでしょうか? 私地方在住なので無知ですみません。
昨年からの世界的危機の状況を差し引いても「ノマド」なフリーランスイラストレーターって存在自体、まぼろしレベルで珍しいと思うのは私だけでしょうか。
いくらMacBookとiPadが高性能とはいえ、気に入った大きなモニタがないと困る場面があるので、結局自分の仕事場がいちばん。同意してくれるイラストレーターは多いのでは
「居所を転々とする」の本意がガッツリノマドではなく「その辺のカフェでも仕事することがある」程度の意味だった場合、住所を明かさないことの理由づけとしては余計理解しづらいです。
SNS中心の時代だからこそ住所を書く意味がある
そもそも、SNSが普遍化してフリーランスも自称からプロまでピンキリな状況だからこそ、住所を明かすほうがいいといえます。「私はイラスト制作という仕事を片手間でやっているのではない」「真剣に事業として仕事をやっているんだ」と表現したほうがいいからです。
特に、これから実績を積みたい、まだ実績がないというイラストレーターこそ、住所や本名を公開したほうがいい。なぜなら、実績という武器がまだ使えないなら、せめて信用につながる要素をひとつでも利用するべきだからです。
全く何の実績もなく、居所も明かさず、本名も名乗らないイラストレーター、なんてふつうの会社員さんからしてみたら、いつ消えられるか怖すぎて仕事なんて任せてられないのです。
ようするに、「住所を公開したほうが信用されるから、昔は名刺に住所の記載は必須とされていた」とはいうけれども、2021年現在もそれは何も変わっていないということです。
「個人情報が怖いから名刺に住所を記載できない」と思っている人へ
住所を名刺に掲載することは、信用を得るために意味があることです。
が、多くのイラストレーターが「名刺に住所を記載するのはめちゃくちゃヤバいことである」と思い込んでいるようです。
「個人情報を公開するのが怖い」といっても、ネット上の個人情報とか色々ごっちゃになってよくわからずに「怖い」って言っているだけの人が多いので、この点をはっきりしておきましょう。
ポイントは次の3つ。
- 名刺は、実際に会って渡すものである
- 名刺交換の相手は、ほぼ会社員である
- 「変な人に名刺を渡さない」ことが大事
名刺は、実際に会って渡すものである
名刺は、直接会った相手に渡すものです(最近なんとなく名刺の出番が少ないのもそういうことですよね)。
ウェブサイトのような公開の場に掲載するのとは分けて考えるべき。名刺に住所を載せると即おおっぴらに公開されてバラまかれるようなイメージを勝手にしている人が多いのが不思議。
名刺交換の相手は、ほぼ会社員である
イラストレーターが名刺交換をする場面って交流会や商談会です。私もかつてがんばっていましたが、後から振り返ると、いただいた名刺の95%は会社員さんです。残りの5%はフリーランサーや同業者とか。
さて名刺を渡した相手がマトモな会社の社員であるならば、住所を知られたからといって何ら怖いことはないはずです。なぜなら彼らはコンプライアンスを守らされているから。
「変な人に名刺を渡さない」ことが大事
「個人情報を渡すのが怖い」の正体はつまり、変な人に住所を知られるのが怖いわけです。
だったら、仕事につながりそうにない相手にまで、やたらめったら名刺を渡さないことです。
例えば、仕事に関係ない一般個人と名刺交換する必要って全くないですね。あと私の体験から、某大商談会の会場で少数遭遇するマルチまがいの営業さんとかがそれに当たります。
「怖いから住所を一切記載しない」のは、「まともな商談相手から信用を得られる要素まで捨ててしまう」のと同じです。
そこで、「変な人に名刺を渡さない」ための行動を身につけましょう。
- 交流会等で、目が合ったら誰彼構わず名刺交換、という行為をやめる。
- 住所を記載しない名刺も用意しておいて「これは」と思ったらさりげなくそちらを差し出す。
- 商談会で置き名刺をしない。
以前こちらにも書いたので興味があれば読んでみてね。
名刺に住所を記載することそれ自体は、別にヤバいことでもなんでもないのです。むしろ問題なのは運用のほう。
「自分は女性なので個人情報を明かすべきではない、男性ならともかく」みたいな感じの反論をしてくる人がたまにいるのですが「女だから多少の甘えは許されてしかるべき」的な思想からの発言ではないことを祈ります、同じ女として。
相手は身分を明かすのに、こちらの住所を明かさないの?
「名刺交換の相手の95%は会社員」と申しました。
相手の名刺には当然、住所、電話番号、所属部署まできちんと書かれています。一方こちらの名刺には住所も電話番号も書いてない、ひどい人だと本名さえなくTwitterアカウントと同じニックネームだけ、だとしたら。
そういう名刺交換って、対等じゃないよなぁと思うんです。
フリーランス/個人事業主って、労働者でもあり、経営者でもあるハイブリッドな存在です。取引先とは対等であるべきです。
相手が住所や電話番号まできちんと記載してくることはあらかじめわかっているわけですから、こちらもありのまま伝えたほうが自然だと思うんですけど、どうでしょうか。
「私は責任持って仕事をやる人間ですよ」ってことを伝えたい場面で、住所や電話番号を隠す必要がどこにあるのかな、と思います。
「個人だから下に見られてもまあ仕方ない」「クリエイターだから何しても大目に見てもらえるはず」。残念ですけど、そういう感覚のフリーランサーもいます。私はそんなんじゃないですぜ、という表明をしたいなら、どっちを選ぶべきかは自ずとわかるでしょう。
まあ、名刺の書き方なんて法律で決まっているわけじゃないんで、どう考えるかはあなた次第です。
ポートフォリオサイトに住所を掲載するかどうか
つづきまして、名刺じゃなくて、ポートフォリオサイトはどうか?
ウェブサイトは公共の場ですから、名刺よりは気を遣ったほうがいいでしょう。
いしつく! では、ポートフォリオサイトの場合は「市町村まで (◯◯県◯◯市)」くらいの掲載をオススメしています。全く非公開にするのはオススメしません。
ショッピングカートをつける場合
例外もあります。それは、ウェブサイトにショッピングカートをつける場合。
例えば「オリジナルグッズの販売もしたい」とか「イラストデータのダウンロード販売をやる」というようなケース。
この場合は「特定商取引法上の表記」が必要です。これに記載すべき事項には住所、氏名、電話番号も含まれていて、住所は番地まで必要です。
ただし条件付きで省略はできるので (請求されたらすぐに公開する、などルールがあります)、結局、実用性のうえでも市町村くらいまで記載しておくのがいいかな。
ちなみに営業のためのウェブサイトの場合は特定商取引法上の表記は要りません。
もし名刺に住所を載せていたら、どうなる?
最後に、実際にやってみてどうだったか? って話をします。
私は以前、自宅の住所を名刺に載せてました。ここ10年くらいはバーチャルオフィスを契約していて、その住所を名刺やポートフォリオサイトに掲載しています。
名刺に住所を載せていたために、何か困ったこと……って特にないんですよね。
もしも、仕事の上でトラブルがあったとしたら、取引先の人が私の家に直接押しかけてくる、なんてことがあったのでしょうか。うーん、あまり考えにくいです。
バーチャルオフィスの方には、たまに謎の営業DMが来ますが、スタッフさんにお願いして捨ててもらえば済むのでこれは問題なし。
たしかに、想像を超えるような頭のおかしい人も存在する世の中なので、名刺に書いた住所が悪用される危険は常につきまといます。でも一方で、それは名刺にだけ気をつけていれば防げるわけでもありません。
名刺には住所を記載しましょう。ただ、本当にそれでいいのか、その覚悟はあるのか、と、ひととおり悩んでから決めるのは大切なことかもしれない。
バーチャルオフィスを利用すればまるっと解決
「個人情報怖い」「でも信用得たい」「仕事依頼ほしい」
そのハザマで色々悩むくらいなら、事務所を借りて、サクッと事業用住所を公開してはどうでしょう?
そのほうがラクだしメリットが大きいです。
事務所物件はどんなに安くても月4〜5万円はかかるけど、バーチャルオフィスなら格安です。
「バーチャルオフィス? あやしくない?」って思っている人もいるかもしれませんが、ちゃんとしたサービスだと会社の登記にも使えるので、住所を全く公開しないのとは雲泥の差です。
私はバーチャルオフィスを使って10年くらいになります。その体験から色々解説してみたので、興味があったら読んでみてください。
いしつく!の教科書
「ポートフォリオサイトで仕事依頼が来るって、ほんとにそんなこと可能なの?」
そんなイラストレーターに読んでほしい全5章のnoteマガジンです。専門用語はできるだけ使わずに書きました。
目次 & 概要
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まえがき 9割のイラストサイトは仕事の役に立っていない
そもそもウェブサイトを仕事に役立てること自体が無理なのでは?そう思っているかたに、私の体験をお話しします。まえがきを読む » -
第1章 イラストサイトに仕事の問い合わせが来ないのは、こんな勘違いをしているから
「作品ギャラリー」を作ろうとしたり、ウェブサイトなんか活用できないものと思い込んでいたり。よくある勘違いを挙げました。1章を読む » -
第2章 仕事の取れるイラストサイトを作るための、正しい作戦
どう作り、どう利用していくべきか、という全体の作戦をお伝えします。いちばん大切なのは、信頼を得ること。バズや過剰なアクセス稼ぎは要りません。2章を読む » -
第3章 仕事の取れるイラストサイトを作るためには、こんな材料をそろえよう
ドメインやサーバー、コンテンツの用意のしかたを解説します。プロフィール文の改善例や、イラスト画像の準備のポイントなど。3章を読む » -
第4章 仕事の取れるイラストサイト、レイアウトの正解例
実際に運営されているウェブサイトのレイアウトとページ構成を解説します。なぜそのようになっているのか、デザインには理由があります。4章を読む » -
第5章 作ったあとどうする?上手な活用とは
ウェブサイトは作って終わりではありません。SEOについて、ブログのやりかた、営業メールの送りかた、現実の営業に活かしていく方法など。5章を読む »